ジュイのその後 ．．．
厳密にいえば、トワル・ド・ジュイは、文字通りジュイ工場で製造されたプリント生地のことを指しますが、当時より同じようなプリント生地はフランス各地で作られており（※2）、それぞれの土地でスタイルに違いはありますが、今では、そういった他の土地のプリント生地も含めて、トワル・ド・ジュイと呼んでいます。また、ジュイ工場閉鎖後、散逸した版木や銅版、銅版ローラー、デザイン帳などを引き継いだ他工場や他業者（※3）が、ジュイ工場のデザインを守り製造し、その中のいくつかは今日まで続いています。現代メーカーでも、美術館所蔵の柄を復刻したり、ユエの単色カマイユのパストラルを彷彿とさせる柄を、現代感覚あふれる配色や素材を使って新たに生み出しており、そういった現代の生地も含め、すべてがトワル・ド・ジュイなのです。
オーベルカンフが生み出したトワル・ド・ジュイの灯は、19世紀半、一度は消えかかったものの、ジュイを愛する人々の手で確かに受け継がれたのでした。トワル・ド・ジュイは、21世紀においてもさらに進化し、愛され続けているフランスの伝統生地なのです。たとえ、オーベルカンフやユエの名は忘れ去られることがあっても、二人が残したデザインは、当時のまま再現されたり、アレンジが加えられたりしながら、この先も人々をずっと魅了し続けていくことでしょう。
天国で、オーベルカンフとユエの黄金コンビは、このような展開にきっと驚きつつも、心から喜んでいるに違いありません。そして、現代を生きる私たちは、この美しい布を手に取るたび、200年前のフランスに思いを馳せ、200年前の人々のあこがれが生んだ布に、一層心ときめくのです。
※2
南仏のオランジュ、マルセイユ、ボルドー近くのボティラン、ブルターニュのナント、ノルマンディーのルーアンやアルザスのミュールーズなど、中には、ジュイ工場設立以前よりプリント生地を製造している工場もあった。
※3
工場閉鎖時に資料や版木、銅版、ローラーの一部を買い取ったブラクニエ（1991年よりピエール・フレに引き継がれている）、オーベルカンフの子孫がトップを務める生地メーカー・カッサル、ジュイ工場の14本の銅版ローラーを有する1860年創業シャルル・ビュルジェなどでは、今日なお、当時のデザインをできる限り忠実に、ときにはアレンジを加えて、「ジュイ工場のジュイ」の製造を続けている。
『田園の楽しみ』1802 ユエによるパストラル柄 トワル・ド・ジュイ美術館
繊細なボリューム表現、人や動物の生き生きとした動きや表情、ユエの下絵の素晴らしさ、そして、19世紀初頭の銅版プリント技術の高さに目を見張るものがある。
『田園の楽しみ』
当時のデザインを忠実に再現した今日のジュイ
本記事は、『手づくり手帖』初冬号 vol.15 2017年11月発行「つくりびと知らず」の原稿に加筆したものです。
参考文献（作者名アルファベット順）：
Serge CHASSAGNE Oberkampf un grand patron au siècle des Lumières L’inventeur de la toile de Jouy Aubier 1980 Flammarion 2015
Sarah GRANT Toiles de Jouy Les Toiles imprimées en France de 1760 à 1830
LA BIBLIOTHÈQUES DES ARTS 2010
Aziza GRIL-MARIOTTE LES TOILES DE JOUY HISTOIRE D’UN ART DECORATIF 1760-1821 PRESSES UNIVERSITAIRES DE RENNES 2015
Esclarmonde MONTEIL OBERKAMPF 1738-1815 Exposition La Toile de Jouy : une aventure humaine, industrielle et artistique Musée de la Toile de Jouy 2015
Mélanie RIFFEL, Sophie ROUSRT, Marc WALTER TOILE DE JOUY PRINTED TEXTILES IN THE CLASSIC FRENCH STYLE Thames&Hudson 2003
La toile de Jouy Dessins et cartons de Jean-Baptiste HUET (1745-1811) Musée de l’Impression sur Etoffes Mulhouse 1970
『西洋更紗 トワル・ド・ジュイ展』図録 2016年6月14日－7月31日 Bunkamura ザ・ミュージアム